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広島高等裁判所 昭和42年(ネ)388号 判決

控訴人(原審被告)

株式会社ヤマニシ

代理人

秋山光明

被控訴人(原審原告)

株式会社船越商事

代理人

高橋一次

外二名

主文

(1)本件控訴を棄却する。

(2)被控訴人の請求の減縮により、原判決主文第一、第二項を次のとおり変更する。

(3)訴外株式会社宮脇が昭和三九年一一月一二日控訴人に対してなした商品売掛代金債務四〇〇万円の弁済は金六八万五、三一四円の範囲においてこれを取消す。

(4)控訴人は被控訴人に対し金六八万五、三一四円の支払をせよ。

(5)控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

《前略》二、控訴代理人は、次のように述べた。《中略》(二)詐害行為の取消は、総債権者の利益のために認められるべきものである。しかるに、控訴人を無視して被控訴人にその債権全額の優先弁済を与えることは、制度の趣旨に反するばかりでなく、法の公平上許されることではなく、信義則に反する。このようなことが許されるならば、倒産の際各債権者が必死になつて行う債権者会議に一切協力せず、配当が終つてから、一人の債権者に対し詐害行為の取消権を行使して、自分だけ債権全額の弁済を受けるという悪習が行われるようになることは必至である。《後略》

理由

《前略》

三最後に、控訴人は、昭和四一年一二月七日の本件口頭弁論期日において被控訴人に対し、控訴人の宮脇に対する当時の債権一、〇三九万五、一〇三円について配当要求の意思表示をしたから、被控訴人は取消された弁済金額のうち本件当事者の各債権額に按分した額に限り控訴人に対し支払を請求しうる旨主張する。

詐害行為取消訴訟において、原告たる取消債権者は、取消の効果として金銭の支払を請求する場合、直接自己に対し支払を請求することができる。そして、その支払を受けた金銭の処置について法の規定がないため、取消債権者は強制執行の方法によらないで、事実上その支払を受けた金銭をそのまま自己の債権の弁済に充当しうることとなる。そうすると、他の債権者は配当要求をする機会がないことになり、取消債権者が自己の債権につき優先弁済を受けたのと同じ不公平な結果を生ずる。同様に、本件の場合においても、被控訴人が勝訴すれば、被控訴人は控訴人の出捐により自己の債権全額の支払を受け得ることとなり、両者ともに宮脇に対する債権者でありながら、不公平な結果となることは明らかである。しかし、取消債権者がその債権額の範囲内に限り詐害行為を取消しうることは確立した判例であるから、若し詐害行為取消訴訟の手続において被告(受益者または転得者)がその債務者に対する債権を以て配当要求をすることが許され、原告たる取消債権者は自己の債権額に限定された取消の対象中原被告の各債権に按分比例した額のみしか請求できないことになれば、取消権を行使しうる範囲を取消債権者の債権額に限定する前示判例の趣旨にていしよくすることは明らかであつて、右判例の理論を肯定する以上、控訴人の前記主張はとうてい採用できない。また、詐害行為取消訴訟は、強制執行とは異なるのであるから、そもそも厳格な意味において配当要求の観念をいれる余地のないものである。しかも、控訴人主張の如き抗弁が許されるとすれば、大口債権者は債務者と通謀して詐害行為を行い、他の債権者からその詐害行為の取消を請求されれば、自己の大口債権に基づく配当要求を以て対抗し、詐害行為取消の効果をほとんど無意味に帰せしめることも可能となり、一般債権者保護のためにもうけられた詐害行為取消制度の趣旨に反することとなる。

したがつて、控訴人の抗弁はすべて理由がない。《後略》(松本冬樹 浜田治 村岡二郎)

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